のんびり

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淀川長治さんの本『「生きる」という贅沢』

 淀川長治さんとは、日曜洋画劇場の後に解説をして最後に「それではまた次回をお楽しみに。サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ!」と言っていた方だ。私が小さい頃に見ていたから、今の若い方はあまり知らないかな。

1998年11月11日に、89歳で亡くなられている。その淀川さんが89歳で出された本が『「生きる」という贅沢』。1998年4月10日初版。 この本のタイトルも好き。

「生きる」という贅沢―私の履歴書

「生きる」という贅沢―私の履歴書

 

 

15年位前に、ネットで話した人が映画が好きで、この本のことを教えてくれたので紀伊国屋で買ったんです。

そしたら中身が良くってね。淀川さんの語り口で書かれた自叙伝なんだけども。

 

淀川さんが生まれたのは神戸で、家は三代にわたる芸子屋だった。身体は弱かったが大切に可愛がられて育ち、3歳の頃は戸ぶくろに隠れるのが好きで、戸ぶくろの中の小さな穴から光がもれて、壁に表の景色が逆さまに映って動く様子が面白くてずっと見ていた。4歳の時に観た短編の西洋喜劇で、活動写真に魂を奪われた。

ここから淀川少年がどうやって映画の世界に入っていったか、淀川さんの家族はどうだったかなど、それまでの人生がずーっと描かれている。ちなみにお姉さんの人生もかなり波乱万丈で面白いのよね…。

 

目次を一部抜粋すると

隠れ家は戸ぶくろ

活動写真の洗礼

置き屋育ち

初恋の小沢センセ

生涯を決めた「ウーマン」

大学入学偽り映画雑誌編集部に

トーキーに驚天動地

貧乏覚悟、誇りの人生

M・G・M受験でカミナリ

弟の死

チャップリンとの四十二分間

ハリウッドは優しかった

苦労こい 他人歓迎

顔はその人のパスポート

こわかった谷崎先生

どろぼうの「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」

なんとタンジュン!

 

こんな感じで興味をそそられる。

どれもただただ映画に一途。歴史を感じるし、ちょっと無茶苦茶な面もあって、ユーモアもあり、ほろりとさせられ面白い。映画のこと以外は何も出来ないダメ人間だと自虐的におっしゃる面も親近感がわく。

 

得に最後の「なんとタンジュン!」の文章は心に染みる。  

七歳のとき、アメリカ映画「イントレランス」(1916年)を見たとき、この映画のバビロンの宮殿のセットにびっくり。嬉しかった。十歳のとき見たアメリカ映画「ウーマン」(1919年)であまりの素晴らしさにボクは映画と一生暮らしたいと思った。

子どもの頃、このように嬉しかったことを持っていたことは幸せだったと思う。小学校の二年生のころイジメッコ二人に痛めつけられ泣く思いをしたくせに、その日そんな時に活動写真の面白さが私を元気にした。  

 

私はタンジュン。けれどそのタンジュンのおかげで見上げる満月を見ると「きれい」と心の中で叫んでしまう。あの月を皆も見ているのであろう。あの美しい月を銀座を歩く人も新宿を歩く人もみんな見ている。いや見上げているのであろうか。あの月を見ないままの人はずいぶん損をしている。

いやいや月ばかりではない、きらめく星も、そして夜が明けて真っ赤な火のかたまりのように昇ってくる太陽も「あーっ、きれい」と見とれてしまう。生きていてよかった。この胸ドキドキ出来る嬉しさの持てることは!

 

しかし私はもうこの年齢(八十九歳)で死が迫ってきている。この死ぬことを、よく夢に見る。自分の寝ているベッドがスーッとあとへ曳きこまれてゆく夢などを見る。死ぬ時を夢で見るのも死の近いゆえだろう。これで振り返って、嬉しいことばかりが思い出される。嘘だよ、悲しいこといっぱいだよ、そうも思う。

けれど悲しいことを忘れるほど私は嬉しいことがいっぱいで今日まで生きてきた。嬉しいことがなくなったら人生の終わり。

 

淀川さんの本はこんな言葉で締めくくられる。

植木鉢の花がまた咲いた。これだって嬉しい。人生は何か。人間の使命は何か。そんなむつかしいことを考えなくても互いに「うれしかったなぁ」と言い合える社会が一番幸せ。なんとタンジュン。しかし百万円よりフトコロの一万円を大切にしたいよ。 

 

 

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